2014年1月1日〜15日
1月1日 劉小雲 〔犬・未出〕

 お正月、ご主人様はこたつにこもってゲーム三昧です。

 ゲームして、おもち食べて、うたた寝して。すっかり子どもに戻ってしまっています。

「ご主人様、年賀状の返事は書かなくていいんですか」

「んー」

 彼はDSをいじりながら言いました。

「正月にやることで一番大事なことはな」

「くつろぐことですか」

「ばーか。姫はじめじゃー!」

 いきなりこたつから飛び出し、襲い掛かってきました。

 ……このひと、また休みの最後に泣きながら年賀状書くんだろうな。


1月2日  ルイス 〔ラインハルト〕

 目を覚ますと、アキラがすでに動き回っていた。

 1月は日本の犬の見回りが多い。彼は早出して、事務仕事を片付けるのだ。
 しかし、さすがにクリスマス続きとあって、その動きも鈍かった。

 一度出て行ったと思うと、急に戻ってきてひとの首元に顔をつっこんできた。

「さむいよう。出たくないよう」

「ん。じゃ、寝よっか?」

「……ぐぐ、行く」

「帰ったら、オモチ焼いてあげるよ」

「……ナマスも」

「ダイコンのね。わかった」

「……行って来る」

 たまには、甘ったれてくるのも悪くない。


1月3日 マキシム 〔クリスマス・ブルー〕

 今年はナオのオセチがない。しかたなく、日本料理屋で注文した。

 黒いピカピカの木の容器に入ったオセチはまったく見事だ。

 ナオのも綺麗だったが、華やかで端整。日本の料理ってなんて美しいんだろう。

「じゃあ、いただきましょうかね」

 そういいつつ、ヒロの箸はあまり進まない。

「うまくない?」

「うまいよ。日本の最高級のお節だ」

 おれはちょっと尖った声を出した。

「ナオのじゃなきゃ食べたくないのか」

「いや、そうじゃなくて」

 ヒロは急に立ち上がった。

「電話してくるわ」


1月4日 マキシム 〔クリスマス・ブルー〕

 ヒロは家令にかけ、誰かを呼び出してもらっていた。

 日本語で話していたからよくわからない。帰ってきた時は、少しさっぱりした顔をしていた。

 おれは言った。

「聞いちゃいけない話かい?」

「そうじゃないよ。でも、めでたい正月に話すことでもないかな」

 そういったが、彼は話した。

「地下にいた時は、正月はかき入れ時だったのさ。日本の客がよく挨拶をかねてパーティーをする。そこに呼ばれる」

 彼は苦く笑った。

「体盛りとか。芸をさせられるわけよ。余興に。犬用オセチってのがあってさ」


1月5日 マキシム 〔クリスマス・ブルー〕

 ヒロは言った。

「ゆで卵とか、そーセージとか。そういうの喰わされるの」

「……おいしくなかった?」

「味なんかわかんねえよ。ケツから喰うんだもん」

 おれは箸をおいて、彼を抱きしめた。
 ヒロはありがとう、と言って続けた。

「でさ。こっちもぐったりくるわけだよ。正月だからさ。小さい時は親戚一同で新年のお祝いしていたりした時期だからさ。

で、セルで泣いてたらさ、日本のアクトーレスが来て、お節を差し入れてくれたんだ。これと同じやつだった」

 ヒロの目が赤くなっていた。


1月6日 マキシム 〔クリスマス・ブルー〕

「一応、セルの食事にもお節っぽいものはつくんだ。正月にはね」

 ヒロは言った。

「かまぼことか、昆布とか、数品。でも、そういう給食みたいなのとは違って、ちゃんと漆ぬりの重箱に入って、――人間に対するリスペクトがあったんだよ」

 ヒロは指先で涙を拭いて笑った。

「いいお節だなとは思ったけど、こんな高級なやつだったなんて知らなかった。あのひと、たぶんポケットマネーで買ったんだ。おれの担当でもないのに」


1月7日 マキシム 〔クリスマス・ブルー〕

 おれは彼の小皿に、エビをとってやった。

「食べよう。とってもおいしそうだ」

 彼も箸をとった。その時、ドムスの呼び鈴が鳴った。

 おれが出て行くと、カメラに映ったのは、アメリカ人のロビンとキースだ。

「お届けものだよー」

 ロビンの手には布に包んだ四角い箱があった。

「ナオトからお届けもの。食いものだぞ。早く開けてくれ」


1月8日 マキシム 〔クリスマス・ブルー〕

 なんとナオトは律儀にも、日本からオセチを届けてくれたのだ。

 キースは笑って言った。

「ナオのご主人が宅配を頼まれたんだけど、ご主人様がよその留守宅に犬をたずねるのは問題があるから、おれたちが来た」

 ロビンはふくれ顔を作り、

「あいつ、おれたちにはなんもナシなんだぜ。おれたちの料理の先生だったのに」

 おれは「ちょっと待ってろ」と言って、ダイニングに戻った。ヒロの皿からエビを戻し、箱に詰めなおして、玄関先に持っていった。

「これ、かわりにやるよ。日本の最高級のオセチだ」


1月9日 マキシム 〔クリスマス・ブルー〕
 
 ロビンはおどろいたが、遠慮はしなかった。

「ありがとう。皆よろこぶよ」

 彼らはもう一軒、まわる家があると言って、早々に去っていった。ヒロはダイニングで空の皿を前にぽかんとしていた。

 おれはかわりにナオのオセチの箱を置いた。

「泣きながら喰うオセチより、こっちのほうがいいだろ。日本の友だちの贈り物のほうが」

 ヒロは目を丸くした。


1月10日 ルイス 〔ラインハルト〕

「トーシノハージメノ〜♪」

 アキラが鼻歌歌いながら、キッチンでゾウニを煮ている。

 早出して、一日カウンセリングして疲れ果てただろうに、すこぶる機嫌がいい。

「ダーリン、いいことあったのかい」

「まあね」

 何かは言わなかったが、楽しそうだ。

「オワン出してくれ。小さい、木のボール」

「あいよ」

 おれが食器棚の前でうろうろしていると、いきなりうしろから抱きついてきた。含み笑いして、腰をすりつけてくる。

「スケベ。神聖な正月だろ」

「オトシダマ、オトシダマ」

 彼はガキみたいに笑った。


1月11日 ライアン 〔犬・未出〕
 
 今日はタクに届け物があった。箱に入った日本料理だ。

 エビだの焼き魚などが豪勢に盛り付けられている。

「食べよ」

 タクはモチを煮たスープと、これを食卓に出した。

「誰から」

「名前は知らない」

「知らないのかよ!」

「顔は知ってる。中庭でたまに会った」

 中庭にいると、やってきて手作りの料理をくれたりしたらしい。

「それは口説いてたんじゃないのか」

「べつに、なにもしゃべらないよ」

「?」

 おいしいかと聞くから、うんと答えただけだそうだ。

 それだけでつきあいが続くものなのか……。


1月12日 カシミール 〔未出〕

 船長はあいかわらず浮気をする。寝ないまでも、そのへんのお客を呼び止めて口説いたりする。

 最初は腹がたった。

「ほかのやつと寝たいなら、おれのベッドに入ってくるなよ」

 だが、あいつは理解しない。

「なんで? ちゃんとカシミールの分の愛もとってあるよ?」

 一度本気で怒って、締めあげた。
 が、夜中にやっぱりベッドにもぐりこんできた。

 抱かれると、おれも結局機嫌が直ってしまう。たいした問題ではなく思えてくる。

 くそ。だんだんあいつのいい加減さがうつってきた。


1月13日 カーク船長 〔未出〕

 カシミールは子猫みたいなやつだ。何してても可愛い。

 鞭を振っても可愛いし、ベッドで腹出して寝てても可愛い。

 カッと牙をむいても可愛いし、笑うとキラキラ光が散るようだ。幸せがどっとからだからあふれてくる。抱きしめたくなってしまう。

 ホントに綺麗なやつがいるもんだ。ラインハルトも綺麗だが、――うむ。彼も素敵だ。あの真っ青な目を見ると、わき腹が興奮で震える。彼がキラリと笑うと、どっとからだから何かがあふれて……。


1月14日 ラインハルト 〔ラインハルト〕

 おれはわりと朝、欲情する。寝起きは、エロい気分が充満していて、隣に寝ているセクシーにからみつきたくなる。

 だが、ウォルフはそうではない。キスしようとすると、顔をそむける。

 彼も朝は元気いっぱい。からだの空気だって色めいている。なのに、つきあいが悪い。

 わけを聞くと、彼は苦笑して、

「朝は、息がにおうと思って」

 ……猫だって犬だって、口はくさいさ。でも、キスするだろ? そう言っても拒む。

 しかたなく、おれは枕元に水のボトルを置いた。面倒なやつ。


1月15日 アルフォンソ 〔わんわんクエスト〕

「ちょっ! こら!」

 ソファでロビンがランダムを叱っています。

「どしたの」

「いきなり顔くっつけてきた。腹でも減ってるのか」

「……」

 わたしはランダムを連れてキッチンに戻りました。

「ちがうよね。慰めようとしたんだよね」

 わたしはランダムの頭にキスして、彼をイスにつかせました。

 ランダムはひとの気分がわかるので、最近、元気のないロビンを心配していたのです。

 ランダムにミルクをふるまい、言いました。

「きみはいいやつだな。でも、ロビンは強いから自分で解決するよ。大丈夫」


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